5年前のあの日
僕は今と同じように毎日帝劇の稽古場に通っていた
デビューしたオリジナル演出版ファイナルのレミゼの稽古だった
あの日はたまたま入り時間が遅く
みんなより後に稽古場のドアを開けた
その瞬間
今まで経験したことのない大きな揺れが僕らを襲った
地面が左右に動き
ごごごご という不吉な通奏低音が頭に鳴り響いた
永遠とも思えた恐怖の時間
設置していたスピーカーが倒れ
子役の子たちは怯え お母さんたちはその子たちを抱きかかえて守りながらなだめていた
終わりの刻を覚悟した一瞬だった
一度外に退避し 日比谷公園に集まったが
積まれていた石垣がグラグラとうねり
日比谷・丸の内のビル群が左右に波打っていた
まさに天変地異だった
そのあとにニュースで見た映像は
映画じゃないか?と思うくらい現実感がなく
まるで信じられないような地獄絵図だった
あれから5年
何ができるのかはわからない
歌なんて 舞台なんて
なんの役に立つ?
こんなことをしてていいのか?と悩んだ
でもあの時
ニュースで見た被災地の方が涙ながらに言った言葉に背中を押された
「それでも、前に進まなきゃね」
そしてそのあと
被災した方々を招待したレミゼ公演で
確かに感じたのだ
自分のやっていることは人の救いに
支えになれるんだと
微力かもしれないが
でもそれが「芸術」の役割なんだと思う
なくたって生きていけるものだ
でもなぜ人はそれを求めるのか
それは 観たり 聴いたりすることで
心が潤い 華やぎ 彩りを得られるからだ
そしてそれが 日々の活力や勇気になり
ときに背中を押されるものだからだ
だから歌い続けよう
舞台に立とう
そしてあの日を経ていま
幸せに生きていけていることを感謝して
前に進んでいこう
そんな想いを新たに
今日も稽古場に行ってきます
誰かを笑顔にする為に
被災で命を落とされた方々へ
心からご冥福をお祈りします
被災地におられる方々へ
心からお悔やみ申し上げます。